其の37 よっちゃんズ


 いやいや、へろへろへろなんて言いながらパソコンに向かうのだが、そこはインターネットでゴーとばかりにブロンを飲みながら、うぃー、おっちゃんもなあ若いときはなあ、若かったんやでえ、ぼん、などと呟く姿は気違いの様でもあり、キーボードを叩くのが乱れたりもする。
 ところで街には噂が流れている。街だけに都市伝説などとマンガのタイトルやVシネマのタイトルのような名前がつけられていたりする。あろうことかアーバンフォークロアとか、アーバンレジェンドなんて、都市伝説のことを言ったりもするのである。いやあ、かっこいいね。アーバンって。竹内力とか出てそうっす。しかし大阪にはアーバンポリス、部長刑事なんて長寿ドラマがあるからかえってかっこ悪いか。アーバンって言葉は。都市伝説というと、ある洋服屋の試着室は床が抜けてそこに落ちると東南アジアに売られて人豚にされるなんていうのもあるし、どこそこの店は猫の肉を使っているなんてのもあるし、最近ではロールプレイングゲームの中で、これこれこういうことをすればゲーム自体が破壊されるなんてのも聞いたこともある。そういえば昔、ゼビウスというゲームでくるくる回る壁のようなのに千発ミサイルを打ち込めば破壊されるなんていうのも聞いたが実際の所どうなのだろうか。わたしの周りには誰も達成できたものはいないのだが。出来たという人は名乗りをあげて欲しいものである。
 大阪に布施という町がある。環状線の鶴橋という駅から近鉄大阪線に乗り換えて二駅の所にある。まあ取り立てて特色のある町ではない。さっきgooで検索をかけてみたら、住宅情報や営業所のページしか引っ掛かってこない。そんな町である。ところがそんな町であるからこそというべきか、何故か近鉄電車の布施の駅のホームにアートガーファンクルがぼうっと立っているという噂があるのだ。あのサイモンとガーファンクルのガーファンクルである。何故なのだ。ほんとわからん。しかしこの噂は結構知られていて、わたしの友人も「僕の友達の友達が見たっていってました」などとのたまうのである。うーん、眉唾ものである。友人の友人であるから余計嘘臭い。それにしてもなにゆえガーファンクルは布施のホームに立っていなければならないのだ。誰かと待ち合わせか。サイモンとか。などという疑問が頭の中をぐるぐる回るのであるが、この噂の秀逸な所は「ガーファンクルが」というところが「ワムのアンドリュー君が」に変わっていたり、「リンゴ・スターが」に変わっていたり、「野村義男が」に変わっていたり、「キャンディーズのミキちゃんが」に変わっていたり、「忍者が」に変わっていたりするのである。取り敢えず忍者って今でもいるのかいなと思ってしまうが、しかし布施はミュージシャンの墓場なのであろうか。どれもグループの中で他のメンバーが出世しているのに置いてけぼりをくらってしまった人物のようだ。それが皆、布施に集合するというのも奇妙であるし、ちょっと怖い。そしてこれらの人物が偶然かち合ったりするときがあったりするのだ。
「あら、アンドリューはんやおまへんかー」
「ああ覚えててくれはったんですか、一緒に仕事したことなかったのに。おおきに」
「そら知ってますがな。やっぱり業界の動きしっとかなわしみたいな人間、生きていかれへんしなあ」
「それに暇ですしなあ、お互い」
「そらきついは、アンドリューはん、たしかにテレビばっかりみてるけどなあ」
「まあまあ、ところでガーファンクルはん、何してはるんですか、布施で。待ち合わせでっか」
「いや、これから梅田の中央コンコースのミスタードーナツの前で待ち合わせなんですわ。おたくはここで待ち合わせでっか」
「いや、なんか暇やからね。そこでパチンコしてたんですわ」
「あ、ニコニコホールですか。あそこあきまへんで。でまへん。うちあそこの店長しってますねん。なんや昔からのファンらしくて。だからわしがいくといっつも「冬の散歩道」かけてくれるんやけど、なんやむずがゆいもんありますわ。ほんでニコニコホールは朝一だけ出すみたいでっせ」
「そうでっか。そらええこと聞かせてもらったわ。今度モーニング行きますわ」
「そういえばあんたの相棒のジョージ・マイケルはんも、なんか売れてますなあ」
「そうですがな、ワムのときにはあんな曲書かへんかったのになあ、出し惜しみしてたんですわ、ジョージ君は」
「なにゆうてはんの、アンドリューはん。あんたなんかましなほうでっせ。クリスマスの時期なったら印税はいりますやんか。あてなんか何回もサイモンはんに再結成しよゆうてんのに、また今度なーゆうてごまかされるんやから」
「まあ、お互い大変ですなー。しかし可哀想なんはフック師匠でんがな。マンガトリオの中でパンチはんも東京でうれはったし、ノックはんなんか今をときめく大阪府知事でっせ。それがあんた、フックはんゆうたら競馬中継しか仕事やってへんからねえ」
「そうやねえ、それもここだけの話やけど、競馬の方もだいぶ負けてるようでっせ」
「大変でんなー、フックはんも。しかし、人の心配しているより自分らの心配せなあかんな」
「そうですがな、ほな早速サイモンはんとこいきますわ」
「それやったらわたしもジョージ君とこいって再結成してくれいうて頼みにいきますわ」
「お互いがんばりましょな、ほな。あらあ、向かいのホームにほらポリスにおった、あの、ギター弾いてはった、名前でてきーへん」
「アンディ-・サマースはんやがな。おーい、サマースはん」
「あらあ、お二人はん、奇遇でんなああ。これからどちらいきはるんでっかー」
「わしら昔の相棒んとこいくんですわー」
「そうでっかー。わしこれから難波のタワーレコードに行きますねん」
「何買いはるんんでっかーーー」
「スティング君が新譜だしはったからー」
「そうでっかー。お互い大変でんなー」
「そうでんなー、あれれれ、あっちにいるのはリンゴはんやないかー、おおい、リンゴはーーん、スターキーはーん、何してはるんでっかー」
「あらあ、サマースはん、見ての通り、擦りおろしリンゴの実演販売ですわー」
「頑張ってくださいねーー」
 なんて会話しているに違いないのである。布施のホームで。しかし誰が考えたのだろうか。きっとその人に神様が微笑んだに違いないのである。寝ていたらベッドの周りが光で被われて、その向こうから神様なんかが出てきて、
「布施にガーファンクル」
 そう一言告げてそのまま光の中に消えていったりして、噂が出来たりするのかもしれない。


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