そのときわたしは電車に乗っていたのだが、隣には中学生らしき人間が座っていた。彼はなにやら考え事をしているようで、ぶつぶつ言っている。
「メカ・ジョン・レノンか……」
ギクシャクしながらがに股でギターを胸のところで弾いているジョン・レノンが浮かんで笑ってしまった。勿論、読書によって笑った様に見せ掛けていたのであるが、しかしメカなのだ。ジョン・レノンが。やっぱり「アワ・ライフ」と電子音で歌うのだろうな。メカ・ジョン・レノンは。なんだったらギターのカッティングをする度に「ンー、ガシャン」みたいな音がするのかもしれない。腕の辺りから。それで思い出したのだが、昔わたしがパソコン通信のチャットに嵌まっていたときのことだ。恐ろしいことに月に四五万は課金にかかっていたような気がする。流石に今はやっていないが、そのときは非常に楽しく、色々な会話を楽しんだものである。そのチャットの中の話で「メカ」について討論したことがあった。
「やっぱりメカになると面白いのは、トミーとマツでしょ」
「ははは、噂の刑事ね」
「ガシャンガシャン言わせながら、メカ国広にメカ松崎が叫ぶんですよ」
「トミー、オマエハソレデモ、オ・ト・コ・カー、コノ、オ・ト・コ・オ・ン・ナとかいって」
「そうそう、それで奮起したメカ国広の耳がね、ガシャン、ガシャンってダンボのように前後するんですよ」
「ウィーン、ガシャン、ウィーンガシャンって」
「はははは、それでねメカ国広が奮起するんですね」
「ロボットの癖に、おとこおんなって言われるまで弱いのが情けないね」
「ついでにメカ松崎の鼻もガシャンとかいってピクピク動くの」
「そうそう、でもロボットだから故障で鼻が取れたりするんですよ、メカ松崎だけに」
「はははは」
とまあこんな話をしていたわけである。どうでもいい話だが、面白かった。こんな話に月四、五万も払っていたのだからわたしは偉い。もしくは馬鹿である。しかしロボットになって似合う人と似合わない人がいるのはなかなか楽しい。オリックスのイチローなんかはあの成績だから「実は僕ロボットなんです」とか言われても納得してしまうし、山本リンダがロボットの如く改造整形しまくっているというのはそのままである。やはり肉体派は体つきがロボット的であるため違和感がまったくない。メカ・イチローっていうのも驚いたりもしないし、笑えない。では肉体派ではなく知性派ではどうだろうか。
「メカ・羽生名人」
これは駄目だ。頭脳明晰であるということはコンピュータ的であるということで、ロボット的である。あれだけ相手の手の先を見通せるのだから「コンピュータのような」という表現が羽生名人には既についている感もある。やはり超人的な人間にはロボット的な感じがするものなのである。では取り立てて超人的な面がない人物ならどうだ。
「メカ・黒柳徹子」
微妙なところである。あれだけの早口の人だから、メカになったら面白いはずなのだが、どこか違和感がある。髪型か。あの髪型だから元々ロボットに見えないこともないからだろうか。しかしメカ・黒柳徹子がアフリカとかに行って、餓死寸前の子供を抱きかかえて泣いている図というのは面白いかもしれない。涙が頬の金属の継ぎ目に沿って流れてたりすると、笑ってしまうかもしれない。
もしかするとロボットになっても意味のない人物の方がいいかもしれない。
「メカ・山田たかお」
これは普段から機械的に仕事をこなしているので誰もメカ・山田たかおが座布団を配っているのに気付かないだろうな。笑点というと円楽なんかが実はロボットで、笑いが止まらなくなって、ゲホゲホ言いながら肩辺りからシューシュー煙が出ているというのはいいかもしれない。
「メカ・黄門」
これはいいのではないだろうか。ネーミングが人工肛門を想起させる点を除けば、メカ水戸黄門が日本を漫遊しながら悪を倒してゆくというのはなかなか面白いと思う。メカ・カクさんとかメカ・スケさんなんかが台詞と口の動きが合っていないのに、例の台詞を言いながらメカ・印篭を悪人に振りかざす様は想像するだけで楽しい気がする。しかしメカ・印篭というのはいかなるものだろうか。それで八兵衛なんかもロボットなのに色々と失敗するのである。街のやくざの抗争を何気ない言葉で煽ったりするのだ。こういう失敗なんかはきっちりと行動様式が記録されていたりして、同じ失敗をするのである。
ロボットになると嫌な職業というのもあるかもしれない。メカ・国王とかはやっぱり嫌だ。キャシャーンを思い出すではないか。まあ国王は職業ではないか。あと刑事は嫌だ。走りながらニトログリセリンを飲んだりするロボットは信用できない。人間でもそんな刑事は信用できないのだから当たり前か。しかしロボット刑事というのもあったんだよな。どういう設定だったのか思い出せないなあ。
それはそうと今丁度除夜の鐘を聞きながら書いているのだが、大晦日とか正月とかまったく関係ないよなあ。メカって。