其の48 超能力者だったんだ


 科学万能主義というのはよく非難されるが、果たしてそれは本当に非難されるべきことなのかと考えることがある。たしかに現在の科学においては解明されていないことも多いし、あらゆる物事に実証主義、論理的思考を持ち込まれると時と場合によっては堅苦しく感じるのものだ。しかしそれはそれとして科学的態度というのはいつの世にも必要とされてきたし、また用いられてきた。例えばかつては迷信に支配されていた時代であり、こうこうこんなことも信じられてきた、こういう考え方がまかり通っていたなどという論調で昔の人々の無知蒙昧を笑うという人達がいるが、それもおかしな話でその時代においてはその考え方がある種「科学的態度」の結果によるものであったに違いないのである。近代になってから急に人々が科学的態度を持つようになったとは考えにくいし、それほど人間というのは変わるものではないと考えるからである。
 ところでオカルティズムに興味がある。正確に言うとオカルティズムの馬鹿らしさ、レベルの低さを笑うことに興味があるということであって、オカルティズムに嵌まっているわけでない。たとえば宇宙人はいるか、という論争が今なおされているし意外に多くの人が「いるに決まってるよ」などと言ったりもして、そういう人の発言を聞くとまたかと非常に悲しくなってくるし、その人の知性の低さに呆れたりもしている。よく聞いて欲しい。そこの奥さん、メモ取るように。
 まず銀河系において毎年生まれる恒星の数は大体10個前後(a)だそうである。奥さん、解りますか。10個なんですよ。ほんの10個。それだけ。ちょっとおまけしてなんか言わないで下さいよ、奥さん。そこで次はその恒星のうち惑星系を持っているのはね、多めに見積もっても大体半分(b)なの。これは非常に楽観的に考えた値だからそれ以上はないと考えてくださいよ。さあ次が重要だ。その惑星系の中に生物の存在を許す個数はと、じゃあパネル出しますからね。(1)3個。(2)1個。(3)0.001個。さあどれにしますか、奥さん。そこの奥さん、駄目だよー、今回に限りもう一つ付いてくるなんて考えしたら。じゃあ一番(c)にしときましょうか。次いくよ。メモとった? ちょっと待ってだって? 困るね、奥さん。CMはいっちゃうよ。書けましたかー。それじゃいきましょうか。次はその惑星に実際に生命が発生する確率だ。確率って解らない? 奥さんがよくやるパチンコの確率変動の確率と同じだから驚かないようにね。奥さんは宇宙人の存在を信じたい人だから、うーん、もってけ泥棒! 全部(d)発生するにしとこうか。急いでいくからよく聞いててよ、奥さん。じゃあその星の生物が知的生命に進化する確率。これも大まけにまけて全部(e)といっとこうか。さあ次だ。その知的生命が文明を発達させる確率。これも全部(f)にしときましょう。奥さん強引だから。そして次が最後だからよく聞いててよ。この文明がどれだけ続くかという年数。だいたい解る? 50年だって? 奥さん意外に消極的だねえ。そうだねえ、大まかに100万年(g)にしときましょう。全部メモ取りましたかー? 奥さん方。
 これは非常に楽観的な値であるから、まずこれ以上の数値はないものとして計算してみる。
 
 (a)*(b)*(c)*(d)*(e)*(f)*(g)=10*0.5*3*0.5*1*1*1000000=7500000
 
 お、凄い値が出ましたね。7500000個に所謂宇宙人が住んでいるということになりました。これが楽観的に考えた場合の宇宙人の存在する星の個数である。しかし銀河系には約200000000000個の星があるわけだから確率でいうと、

 7500000/200000000000=0.0000375

 つまり0.00375%なわけである。これは非常に低い値ではあるまいか。勿論楽観的に考えた場合でこれだけの値なのだからもっと悲観的に考えれば更に確率は下がる。これでも宇宙人がいると言い張りますか、奥さん。
 なんてこと言いながらこれはそれぞれの値の出しかたが正しいとは限らないし、これだけの計算で宇宙人の存在の確率が出るとも限らないのだが。非常に長々と書いたが結局はわたしが科学的態度を非常に重んじる人間であるといいたかったわけである。勿論宇宙人の否定以外にも超能力なんかも否定する者でもある。
 最近母上は食器棚を購入した。以前使っていたのはかなり古くなっていたからである。わたしがこたつでぬくぬくしながら新聞などを読んでいると、ぼそっと食器類を入れ替えている母上が言った。
「あ、懐かしい。あんたが昔曲げたスプーンや」
「へ?」
「いや、あんたが小さい時さすってたら曲がってしまったスプーンや」
「ど、どういうことなんだよ」
「あんた、よう曲げてたんやで」
「す、スプーンをか」
「そう。どうやってかはわからんけど」
「力でだよな、力で曲げたのだよな」
「そうやと思うけど、三歳くらいやから、それほど力ないから、意外に超能力ちゃうかー」
「う、嘘だーー」
「それか気功かもしれんけど」
「あるはずないだろ、超能力とか気功とか」
「まあ、そうかもなあ。あんたが超能力者やったら、そんな安月給なわけないしなあ、はははは」
 今、わたしのアイデンティティは揺らいでいるし崩壊しようともしているし、安月給にも怒っている。


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