NHKの幼児向けの番組で着ぐるみのキャラクターが縦横無尽に活躍する「ドレミファ・どーなっつ！」という番組があることを寡聞にして最近知った。その「ドレミファ・どーなっつ！」のキャラクターは「ドレミファ・どーなっつ！」というタイトルが示すよう音楽に関係のあるものである。
まず双子のプードルが出てくる。一人は「みど」といいもう一人は「ふぁど」という。名字は「わおん」などという巫山戯たものではあるが、犬であるから「わおん」ということも関係あるのであろう。次は「れっしー」というキノボリカンガルーである。キノボリカンガルーというのもかなりマニアックな動物である。「れっしー」というのは通称であり本名は「れおなるど・とびっしー」という妙に立派な名前である。そして彼はマダカスカル島の王子という身分である。さらにこの「れっしー」の設定ですごいのは、父である王様が故国マダカスカルを軍部のクーデターによって玉座を追われてしまったため、その王子の「れっしー」はアンシャンレジームに戻す機会を伺いながら日本で冬はたこ焼きの屋台を引き夏はアイスクリームを売り普段は牧場で住み込みで働いているという点である。こんな複雑な設定を何のために幼児番組につけたのか理解に苦しむが、それよりも気になるのはこの「れっしー」はキノボリカンガルーの分際でペットを飼っているということである。畜生のくせに甚だ生意気である。ついでに言えば「れっしー」の父上は「元王様」という芸名で歌手をやっている。もしかするとディープパープルの完全コピーでもやっているのか。息子はしっかりしているのに何とも呑気な父親である。
「みど」「ふぁど」「れっしー」。こう並べるとおわかりであろうが、これはすべて音階を元に名づけられている。それぞれのキャラクターに付随している設定は兎も角「ドレミファ・どーなっつ！」というタイトルに相応しいネーミングであろう。
しかしここにもう一匹の着ぐるみがいる。これまでの音階から推察するとこうである。ド・レ・ミ・ファ・シと出揃っている。あとはソとラである。であるから「ソラ」という名前が相応しいのではないか。「ソラ」という名前から想像するにちょっと夢想がちでときにポエムなんかを諳じたりする可愛い女の子（動物）のように思える。しかしそうではなかった。
「青井空男」
ゴリラである。折角ここまで音階のうち二つをとったキャラクター名で統一してきたのにどういうつもりだ、空男。ソラでいいじゃないか。それなのに空男。
ドーーー、レーーー、ミーーー、ファーーー、ソーーー、ラーーー、シーーー、オーーーーーー！
オーって何だ、そんな音階はないぞ、空男。
だからというわけではないが名前というのはその人の人生に大いに関係してくるものである。
わたしの名前は「渡部」というものであるから、出席簿でいえばほとんどの場合最後になってしまう。ということは出席をとる際名前を呼ばれるときも一番最後であり身体検査の順番も一番最後であったりして、何かと待たされることも多かった。何事も最初に行うのには勇気がいるが、かといって最後まで取り残されて一人で予防接種を受け「痛なかった、ぜんぜん痛なかった」と誇らしげに後ろの人間に言うことも出来ず何だかさみしいものがある。そこでいつもわたしよりも出席番号が後ろの転校生か来ないかと考えていたりしていた。
「腕田剛」
わんだごうと読む。こんな転校生がやってこないかとよく考えた。しかしそんな名字なんてない。「わんだ」って、なんだ、「わんだ」って。しかも名前までも決めつけているのである。自分で考えたわりに名字と名前がぴったりである。何だか剛速球を投げそうである。百五十キロくらいの。
「鷲掴健」
わしづかみけんと読む。なかなか強そうな名前であり、体格もよさそうである。握力はかなり強く林檎をつぶしてジュースを絞り出せるくらいである。必殺技はアイアンクローとストマッククロー。将来子供たちも皆健と同じ職業に就くがいずれも大成せず、五人の息子がすべて事故死。呪われた一家との異名をとる。ついでに可愛いあの娘のハートもわしづかみ。惜しむらくは「わしづかみ」ではわたしよりも出席簿で後ろにくることはないのである。
「悪下薫」
わるしたかおると読む。ものすごく悪い。育ちも悪ければ顔も悪い。しかし薫という名前の甲斐あってか動物には好かれる。しかしこんな名前など絶対にない。「わるした」ってなんだ、「わるした」って。絶対にこんな名前の転校生など来るはずがないのである。
あと出席番号には関係ないがこんな名前も考えたりしていた。
「小包太郎」
こつつみたろう。なんだそのぞんざいな名前のつけ方は。
「草木栄」
そうもくさかえ。もう草ぼうぼう。
「踝駆」
くるぶしかけると読む。くるぶしってこんな字だったんだ。
「独楽鼠来流々」
こまねずみくるると読む。もはやこんなのは名前とは言えないのである。
いまだによく覚えているものだと己の記憶力に感心するが、こんなしょうもない名前を覚えているくらいなら少しはUNIXのコマンドくらいしっかりと覚えろよと言いたくもなる。出席順の関係で一人残されるときにこんな名前を考えたりしていたのであるが、やはり小学生という生き物はくだらないことばかり考えるものなのである。
ところで話は戻るが青井空男であるが、こいつの設定はこうである。空男の父の勤務先であった鉄道会社が廃線となり父は解雇される。そしてドレミファ鉄道に再就職しどーなっつ島へやってくる。母親はいない。それで空男が家事のすべてをこなしている。空男というのもいい加減な名前ではあるがこう設定をみてみると何だかいい奴のように思えてくるではないか。こうしてみると「ソラ」では軽い。やはり「青井空男」がしっくりくるようにも思えてくるのである。
気はやさしくて力持ち。父親と二人暮らしの「青井空男」。声優はドラえもんのジャイ子の声である。
だからどうしたっちゅうねん。